セルディを長く恋い慕い続けることになるレサ。
だが、彼女は知らなかった。
セルディがその内に抱える幾多の血統ゆえに、どこにいても常に異邦人であり、それに苦しみあがいていることを。
この後、その血ゆえに、彼を育んだ世界と決別することを。
まして、巫女としての能力ゆえに、彼さえもまだ気づかぬうちにその血と運命を感じ取り、それゆえに、彼を忌み嫌い怖れる王女シリアを彼が愛していることを。
作品のご紹介 : 作者さまは、ファンタジーの名手であられます。しかも、拙宅でご紹介することが多い、舞台を異世界に移したながらも、現世に似た世界、実在の時代に似た架空史系の王宮ファンタジーではありません。世界観も違う、価値観も違う、なによりも、魔族やら竜やらが登場し、魔法系の不思議な力が作中では不思議とされない、バリバリ?のファンタジーを得意となさる作者さまであります。
実は、私メ、バリバリのファンタジーは苦手であります。いえ、本棚には指輪物語やらナルニア国やら早川FT文庫やら、バリバリのファンタジー系の本もごっちゃりあります。若かりし?頃は、バリバリのファンタジーも大好きだったはずなのですが、最近はとんとご無沙汰・・と申しますか、少々敬遠ぎみです。少なくとも、オンラインでは、余り読みません。読み初めても、読み通せないことがとても多いからです。
ご存知のように、ファンタジー作品は、その世界観から何から、全て作者さまが構築なさらなくてはなりません。作者さまが作った世界、作者さまが作った価値観、それを読者に納得させなければ、その上に展開される物語を楽しむことなどできません。それが人間しか登場しない現世に似た世界であれば、読者が無条件に無意識に受け入れることができる部分も多いのですが、それとは違い、人外の者を登場させ、現世とは明らかに異なる、人の世の理を超えた独特の空想世界の物語、つまりバリバリのファンタジーであれば、作者は一から十まで読者にそれを説明し、尚且つ納得させなければなりません。それは実に難しい・・と思います。スケールの大きな作品を目指した故でしょうか、冒頭から微に入り、細に入った詳細で長大な、いかにもな説明のための説明が続く作品も多いのですが、それらは読んでいるうちに疲れてしまい、物語が動く前にギブアップしてしまいます。がまんして読み進めれば、その後、おもしろい物語が展開するのかもしれないのですが、根気のない読者である私メはそこまでいきつけないことが多いのです。(年のせいかなあ・・)
たとえば、そこにあきっぽい読者である私メの気をひくような恋愛を絡めた印象的なエピソードなどを散りばめて、それでひっぱってくださればよいのですが、バリバリ系のファンタジーに恋愛色はそれほど濃くありませんし、むしろ、ロールプレーイングゲームの影響をうけたらしい戦闘シーンが多い、敵を倒すことによって物語が進んでいく作品が昨今、特にオンラインでは多いように思えます。ゲーマーでないせいでしょうか、私メはそれをあまり楽しめません。小説というフィクションの世界で私メが楽しみたいのは、人間のドラマであるからでありまして、戦いを題材とするならば、戦記系や個人対個人の決闘系の区別なく、そこに人間同士、国同士の、やむに止まれぬ引くに引けないヨンどころのない何かがに重きをおいていただきたく、つまりは決定的な戦いに至るまでのあれこれこそがおもしろく、私メは劇的と感じるのであって、戦いそのものや、その描写には余り興味をひかれません。絶対的な悪に対する戦い・・というのも嫌いではありませんが、それならそれで、善たる側に、よっぽどの魅力がないとつまらなく感じます。(我ながら、なんと我ままな読者であることか!)
あるていど読み進んでも、その複雑な世界観にも関わらず、物語自体は平坦で設定負けしているように感じられることも多く、そうなるとそこでまた挫折してしまいます。といって、物語の根幹であるその部分の説明が足りなかったり、曖昧だったりすると、後々論理その他のほころびがでてきて、それはそれで興ざめです。論理の破綻を繕い補うために、あるいは行き詰まった話を広げるために、今まではその気配もなかったキャラの背景や過去が突然複雑で重厚なものになったり、物語の因果を、宇宙やら神やら深遠遠大なものに求めてしまうのも、唐突過ぎてついてゆけません。自由な発想が許されるからこそのファンタジー作品ですが、自由であればあるほど、つまりバリバリ?であればあるほど、その世界に読者を引き込むのは容易ではないなあとしみじみ思います。
前置きが長くなりました。要は、こちらの作者さまの作品は、そんなわがままで根性なしの読者である私メでも読み進み、読み通すことができる、私メにとっては大変貴重なバリバリのファンタジー作品だということを申しあげたかったのです。ご紹介の作品は、この作者さまの代表作にしてサイトの看板作品、エーデムリングという世界を描いたシリーズ中の長編、『陽が沈む時』 の番外編として描かれておりまして、ファンタジー色はそれほど濃くはありません。本編 『陽が沈む時』 の主人公は、血の宿命に翻弄される双子の王子ですが、番外編であるこの作品は、母の生国に戻った兄王子、銀の髪のセルディを愛する下働きの少女レサの視点で語られております。彼女の報われぬ愛を描くというよりも、彼女の目から見たセルディの愛と苦悩を描いた作品ではないかと私メは思っております。シリーズ本編読了後を見越しての物語ですから、本編未読の方にとっては、ネタバレ満載になりますのでご注意くださいませ。
バリバリのファンタジー好きの読者の皆様には、本編 『陽が沈む時』 からお読みになることをお薦めいたしますが、そうでない方は、この番外編から、あるいは単独でお読みになっても、充分恋愛作品として楽しませていただけるかと存じます。(注意:辛口OKの方限定!)むしろ、この作品を読むことで、本編を読まれてみようと思われる方もおられるのではないかと。後々レサ自身もそうと悟るように、レサが見つめていたセルディは、彼の側面でしかありません。それでも、彼女が語るセルディは秘められた部分が多いからこそ魅力的で、だからこそ、読者は、この魅力的な貴公子の内面、その愛と苦悩をより深く知りたくなるのではないかと思います。
年齢制限はないサイトさまであり、一文一文が短く、驚くほど平易な言葉で語られておりまして、とても読みやすくわかりやすいですが、作品は子ども向けではございません。語られる内容は、さりげなく深く、時として、バサリと人の心の奥底を明快怜悧に切り開いてみせ、ストレートで痛快です。世界観の説明があきるほど長々しいこともなく、簡略すぎて論理が破綻することもなく、よってつじつまあわせのために無為に話が広がりすぎることもなく、もちろん平坦な物語でもありません。作者さまが描く作品世界は、一つの世界として完結しており完成されております。そして、作中のキャラのほとんどはヒトではありませんが、そこにはまちがいなく読む者の心を揺さぶる人間としてのドラマがありました。
作品への直接リンクOKのサイトさまですので、ご紹介の作品 『偽愛』 への直接飛びたい方は
こちら からどうぞ。同じエーデムリングの世界を舞台とする恋愛ファンタジー『 銀のムテ人 』も、ファンタジー好きな方にはお薦めでございます。
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