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作品のご紹介&感想 本編は既にご紹介させていただいた
「幻影金魚」の後日談を描いた続編にあたる
オンライン小説です。シリーズ作品の
オンライン小説の場合は、初作だけのご紹介に留まることが多い拙宅ですが、前作の持ち味を保ちながらも、本編が持つ、この一味違う新鮮な魅力に抗えず、ご紹介させていただくことに致しました。
少女の性的な衝動や恋情、それを感じることへの痛々しい罪悪感を幻想的な赤い金魚に投影させて、少女の性の瑞々しさを見事に描かれた前作「幻影金魚」。そのイメージを壊さないように苦心なさったとのことですが、苦心なさった成果が実り、本編も前作に負けず劣らず瑞々しく清冽な情感と官能が滲む作品となっております。
少女の視点で語られた前作とは違い、本編は少年の視点で語られますので、そこには明らかな差異があります。はっきり申し上げればそれは男女の性差に他ならないのですが、それが実に、情感たっぷりに描かれておりまして逸品です。
前作では少女の性的な葛藤を象徴し体現していたのは、ひらひらと泳ぐ赤い金魚なだけに、性的な題材をリアルに扱った作品ではあっても、どこか頼りなげな可愛らしさが漂う作品であると、そのように申し上げたかと思います。けれども本編でヒーローたる少年の性を象徴しているのは青い竹、そして竹林の中をざわざわと吹き抜ける風であります。
若竹のような―という表現は、古来より日本では、好ましい若者を評する最上級の褒め言葉でありました。青々とした幹やしなやかな枝を持ち、真っ直ぐに上へ上へと伸びゆくその姿は清々しく、いかにも若者をそうなぞらえて賛美するに相応しい有り様です。竹を割ったような―この言葉も潔く嘘のない人間への賛辞であることは周知の通りです。人の麗質を称える比喩に用いられることさえ多い、美しい姿と加工しやすい性質を持った竹ですが、同時に他に類を見ない旺盛な生命力と繁殖力を兼ね備えた樹木でもあります。たった一本でも根を下ろせば、その驚異的な成長速度でたちまち周囲の植物を圧倒し、数年のうちにその一帯を鬱蒼とした竹林にと変えてしまいます。森林や寺社の竹林の美しさと静けさには心癒されるものですが、狭い場所で争うように生い茂る竹林は、一度風が吹き抜けると、静けさから一変して、大きく揺れ動いてざわめくので、その様子にわけもなく不安をかき立てられ怖れを感じたことがあるのは私だけではないでしょう。
本編のヒーローの少年、清矢郎は、まさに若竹と称えるに相応しい容貌と気性の持ち主です。剣道で鍛えた長身にすっくと伸びた背筋、整った目鼻立ちと真っ直ぐに相手を見つめる怜悧な視線、そしてその若竹のような姿形を裏切らぬ、竹を割ったような潔く真摯な気性。四年前の過ちとその罪悪感から心塞ぐことの多い彼ではありますが、それによって彼本来の真っ直ぐな気性が損なわれることはありませんでした。そんな好青年の彼ではあり、それに嘘偽りはありませんでしたが、それでも彼は、時として生い茂る竹のような若く猛々しい欲望を持て余し、その度に彼の心は風が吹き抜ける竹林のように大きくざわめき揺れていたのです。
ヒーローの少年は18才、物のわかった大人の男性が、この時期の性的な欲求ほど男にとってきついものはなかったと、若干の照れくさくさとほろ苦さを含ませながら説かれるのを聞いたことが何度かあります。少年が苦しめられ、翻弄され、煽られるそれは、間違いなくこの時期の少年特有の欲望そのものであり、その欲求の質や緊迫度は、赤い金魚を視るヒロインである少女の、そして大人の女性である私たちが知るそれとも隔たりがあるに違いありません。女性たちはそれを知識として知ってはいても、その実体?は想像することしかできず、あるいはヒロインの少女のようにそれを受け止める器となることでしか、理解することはできないでしょう。
それは個体としての成熟を迎えたばかりの若い雄として、自然が定めた摂理に基づいた当然の欲求であります。健康な人間の男性であれば、至極普通で自然な事であることは百も承知でありますが、人間の女性であればこそ、そして今よりはもう少し性が秘められた昭和に生まれた者としては、知らないふりをしてあげるのが武士の情けかなと、私メは考えていた節がございます。なにより、BLも読まず、息子を持たない私メには思春期の少年の性については興味も関心もなく、せいぜいが、そうした少年達の興味の対象となる娘達に注意を促し、彼女たちのBFにそれとなく釘を刺しておくらいです。(大事に育てた娘だから大事につきあってねという程度ですが(~_~;))ともかくも、私メは、この年になってさえ、そうした男性の生理には女性として理解し難い生々しさがあるような気がして、直視したくないという気持ちを持っておりました。
作者さまも女性、そして私も女性、少年の性を描いたといっても、所詮想像の域をでないものである事は否めません。果たして男性が本編を読まれてどう評価なさるかはわかりませんが、女性読者である私にとっては、少年の性とその恋を描いた作品として楽しむに足りるだけの説得力とリアリティを有している作品でありました。むしろ、女性の作者さまが女性の感性で描いた作品であるからこそ、興味も関心もなかったこの分野でありながら楽しむことができたのだと思います。
ヒーローとヒロインは血縁関係のある従兄妹同士であり、彼らはその関係性ゆえに、また深く思い悩みます。いくら民法では従兄妹同士の結婚は許されているとはいえ、家族の立場であれば、手放しに賛成し祝福できる関係でないことは確かであり、このあたりの設定や描写も、私はとてもリアリティと説得力を感じました。肉体的にも恋人同士となった今の関係を、手放しで喜び無条件で肯定するのではなく、この恋の永続性と妥当性を疑い、躊躇い、懸念し、それでも少女への恋情と欲情には勝てずに関係を続けるヒーローの心情は千地に乱れるのですが、それは、鮮烈な彼の性を語るとともに、彼の思慮深さと誠実さをも物語っておりました。こんな彼であれば、二人の前に横たわる様々な難問も乗り越えることができるかもしれないと思わずにはいられませんでした。加えて彼は四年前の自身の過ちに激しい罪悪感をもっており、少女と付き合うようになっても中々それを払拭することができません。思い悩む彼には悪いのですが、物事を斜めに見たがるトウの立った大人の読者の私メと致しましては、冷静かつ客観的にみて、この完全には捨てきれないであろう彼の罪悪感こそが、流動的で刹那的になりがちな若者の心と恋、それを抑止する秘められた重しとも碇ともなり得、この恋の永続に益するに違いないと、一人納得してしまいました。小難しいことばかり並び立てましたが、早い話がヒーローの身もだえ?する様に、激しく萌えてしまったはっちでありました。
きゃっ!…(*´艸`)
前作を読まれ、あの幻想的、叙情的かつ官能的な
オンライン小説の世界を楽しまれたお客様であれば、必ずや本編もご堪能いただけるに違いないと確信しております。本編だけでもお楽しみいただけるとは思いますが、前作をお読みいただいてからのほうが、一層おもしろいかと存じますので、未読の方はまずは前作「
幻影金魚」をご一読なさることをお薦め致します。
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