遠く深海に広がる「海底国」の物語。次期竜王の側女であった「戻り女」を娶ることになった雷史(ライシ)。名家の跡取りとしての自負と驕りが勝る若い雷史は、ふがいない父への反発もあり、主家(西南の大臣)から押し付けられた出戻りの年上の妻、秋茜が気に食わない。婚礼の夜から花嫁をほっぽらかして他の女を抱き、そのまま一月も顔もあわせずにいた。だがある日、大臣から妻への手紙を託され、気のすすまないままに届けにいくと、婚礼の時はろくに顔も見ずにいた己の妻のその美しさに改めて気づき衝撃を受ける。打ち解けない妻への苛立ちから強引に彼女を抱くが、かって後宮で次期竜王の愛妾であったはずの秋茜は男を知らない体だった…。
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訝しく思いながらも、翌日彼女にそれを問い詰めると、次期竜王が数多くの側女を侍らしながらも御子の誕生がなかった原因が次期竜王その人にあったことがわかる。鬼の首をとったような気になり、その醜聞を公にすると言う雷史を思いとどまらせようと秋茜は自害を図るが、危ないところで彼によりそれは止められる。その際、足に怪我を負った雷史は、そのまま秋茜の居室へ留まるが、彼女は相変わらず打ち解けず笑顔を見せることもない。雷史はそれを腹立たしく思いながらも、彼女を求める気持ちを抑えられず、体だけを重ねていく日々が続く。ある時、隣の集落へでかけた雷史は、そこで玻璃(硝子)でできた美しい花籠を見つける。その花籠の意味もいわれも知らぬままに雷史はそれを買い求めたのだが・・・。
作品のご紹介&感想
超有名オンライン小説サイト様の超有名作品ですので、ご存知の方も多いかと存じます。初めてこの作品を拝読した時、無償(ネット)でこれだけの作品が読めるのか、
オンライン小説ってすごいっ!と驚いたのを覚えています。魔法系ではない異世界ファンタジーで舞台は平安・鎌倉時代に似た身分・社会制度が息づく海底国。全編に和風テイストが息づいています。
この作品は海底国シリーズでも初期の作品であるせいか、舞台が海底、つまり水の中の世界であることを読者に知らしめる、幻想的で美しい描写が、物語のそこここに溢れています。登場する人々の瞳や髪の色、気の流れとともに長くゆらめく髪、美しく色を重ねた女性たちの衣装。読んでいるだけでうっとりしてきます。その美しくたゆとう柔らかな色彩と光の中でこの雅やかで情熱的な物語が語られてゆくのです。
打ち解けることのないままに、体だけを重ねていく雷史と秋茜。秋茜の美しさと奥ゆかしさに次第に心惹かれていく雷史ですが、よそよそしい彼女の態度と、何より若い雷史は素直に自分の気持ちを認められません。まさしくすれ違い夫婦物語、しかも年上の美しく貴族的な妻と、名家の若君とはいえ、武士のような野趣のある年下の若い夫ですから、すれ違うのも道理ですし、そのすれ違い具合が絶妙でした。物語は雷史視点で語られるのですが、苛立ち、焦れるその雷史の心情がそのまま伝わってきて、読者も必ずやきもきじれじれしてしまうでしょう。(それが楽しい!)すれ違い、かみ合わない心の苛立ち、鬱憤を、体を重ねることで晴らそうとする雷史の閨房のシーンは激しく官能的で、その対比に私メはヤラレテしまいました。(笑)
秋茜がなぜ雷史に打ち解けることができなかったのか、この作品のタイトルの「玻璃の花籠」には一体どんな意味があるのか。それは物語の後半から徐々に語られてゆきます。それが明かされたとたん、読者を焦れ焦れさせてきたこの物語が、もう切なくて切なくてたまらなくなっていきます。まさに、読者は、作者さまの掌で転がされております。
今回、この
ご紹介文を書くにあたって久しぶりに読み返してみたのですが、ストーリーの展開をもう知っている私が読んでも、焦れるところでは焦れ、切なくなるところでは切なくなりました。名作はやはり何度読んでもおもしろいです。この作品の魅力は、巧みなストーリー展開や説得力もさることながら、この作者さまの柔らかくまろやかな文体によるものも大きいのではないかと思いました。ストーリーはもう知っているからこそ今回は、読みやすくわかりやすい、それに加えて、美しく雅やかな文章に改めて脱帽いたしました。あらゆる意味で
オンライン小説の奥深さを感じることができるすばらしい作品であります。
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