作品のご紹介 : 大変遅くなって申し訳ございません。リクエストいただいた現代ファンタジーのご紹介でございます。(こちらの作品は完結しておりました!)
さて、秋葉原ににメイド喫茶なるものが出現し、ご主人様と呼ばれることを好む男性諸氏の人気を博して随分になりますが、それではメイド喫茶ならぬ執事喫茶なんてのはあるのでしょうか?
ありそうですが、あまり聞いたことないですねえ。あったとしても、それほどメジャーではないのでしょうか?
おっ~と、なにもはっちは執事喫茶に行きたがっているわけではございませんです。(ホントに?)オンラインの世界でも、男性諸氏の秘めたる願望を満たしているがゆえに、ご主人様とメイド系作品が支持されているのと同じ様に、おじょーさまと執事に代表される女性主、男性従者系作品もまた、女性の夢とロマンを刺激してくれるわけでして、要は、自分に無条件で奉仕し、献身してくれる存在に憧れるのは、何も男性だけに限らないということを申しあげたかっただけでございます。
高貴な存在の傍らに、彼らに仕え、従い、守る事に身命を賭した従者が控えるのは古今東西それほど珍しいことではありません。封建制度の元では幼い時から主に仕える年若い従者の存在も当たり前でした。しかし、制度の崩壊とともに従者たる存在は、完璧な職業としてでなくては成り立たなくなり、従者の生殺与奪の権利さえ主がもっていた時代とは様相が一遍します。職業、つまり、労働に対して正当に金銭としての代価が支払われる以上、雇用主と被雇用者の関係は原則的にはフィフティーフィフティーであり、そこに本質的な意味での上下はありません。特に資本主義民主主義を基盤とした現代社会において、完璧な主従関係は存在しないといってよいでしょう。わずかにその名残を留めていたのは、日本でも、戦前、戦後まもない裕福な家ではそれほど珍しくなかった『爺や』や『婆や』の存在でしょうか。(言ってみれば、爺やが執事、婆やが女中頭か乳母)そして、もちろん、彼らは、幼く若い主によりもはるかに年長でした。年長である、つまり長く仕えたからこそ、始まりは純粋に職業として従事していても、徐々に主家に対する忠誠心も深くなり、やがては職業を超えた奉仕と献身ができたのかもしれません。彼らの中には、封建時代の従者を彷彿させる、主のための滅私奉公を当然とした者もいたでしょうし、古い物語にはそうした献身的な年長の従者、『爺や』や『婆や』がよく登場します。
さて、前振りが、大変長くなりましたが、今回のご紹介作品もまた、変則的ではありますが、それでも紛うことなき主従モノと言えるのではないかと思います。そして、これが重要なポイントでございますが、従者たる関谷は、主たるヒロインと同年の若者でございます。前述したとおり、『爺や』や『婆や』など年長の従者であれば、金銭を超えた献身や奉仕も理解できますが、年若く、しかも主とは異なる性の献身的な従者という存在は、実際にはありえない…あったとしても非常に稀であり、少なくとも、かなり不自然なわけです。
献身的な異性の(しかも美形の)従者に憧れる気持ちは私メにもございますので、そうしたカップリングの作品には心惹かれます。しかしながら、そのカップリングでありさえすればば無条件に楽しめるというわけではございません。実際にはありえないからこそ心惹かれ、フィクションたる物語の中で、その世界を楽しみたいわけでございますが、それにはその不自然さを、不自然と感じさせないだけの説得力が必要不可欠です。どんな物語にも言えることですが、それが特異な設定であればあるほど、その重要度は増し、まして本編のようにそれがヒロインとヒーローの関係の根幹をなすものであればなお更です。
さて、本編では、なぜにかくも若い二人に主従関係?が成り立っているのか、なぜに従者たる関谷が、主たるヒロインに献身し奉仕するのか、それは本編の根幹の部分でもありまして、しっかりと理由づけされ繰り返し説明されております。それはかなり変則的でユニークなファンタジーならではの設定(そこがまたたまらなくイイ!)でありますが、説得力は充分です。従って、この特殊?な二人の関係の上に展開する物語を、読者は不自然さや違和感を感じることなく楽しむことができるのです。
本編は、現代風?ファンタジーでありまして、学園都市桧林という、少しだけ不思議系の世界観によって成り立っている、少しだけ閉鎖的で少しだけ特殊な世界の物語です。ヒロイン繭美の家である綜目一族の特殊性や、この作品世界における神祇庁の役割など、ファンタジー作品ならではの設定もありますが、こと本編中に彼らが繰り広げるドラマや恋愛事情に関しては、彼らの関係の基盤である、VPV保菌者と受領者との必然かつ、エロティックな設定以外には、ファンタジー色はほとんど気になりませんでした。
主と従者と今まで述べて参りましたが、本編では正確には、主たる繭美は保菌者、従者たる関谷は受領者と呼ばれるております。二人が二人ともかなり合理的かつ冷静で聡明なせいもあり、理路整然としたその関係因果の説明を含めて、淡々と紡がれる文章には無駄がなく、物語はある意味とてもクリアでストイックな印象を受けます。それでいて、その極力感情をそぎ落としたような文章の行間からは、隠しきれないキャラの心情や情緒がちらちらと垣間見え、それがこの作品のなんともいえない不思議な魅力となっています。
それが一番端的にあらわれているのは、二人のエロティックなキスシーンだと思います。二人は感情のやりとり(愛情や欲望)抜きで、お互いの生命の維持のために、くちづけをかわしあうわけですから、(少なくとも、そのつもりで)作者さまはそこに余計な感情表現は排しておられますが、それでいて行為自体はかなり具体的に詳細に描写なさっているのです。なんと申しますか、そのアンバランスさのせいで、そのシーンが実際の行為以上にエロティックに思え、そして、感情表現が盛り込まれた普通のラブシーンにはない不思議な魅力を感じました。
愛情や欲望ぬきのくちづけを生命の維持のためにかわしあう二人。それだけでも十分エロティックですが、二人の関係が主従であれば、ドラマティックさ、ロマンティックさも倍増です。しかし、繭美は、その二人の関係に疑問を持ち出します。普通一般の恋愛モノとは一味違いますが、それでもお互いのへの微妙な感情を持て余し、それゆえに展開していく物語は、充分恋愛モノとして楽しませていただけるかと存じます。
現代ファンタジーというリクエストをいただきましたので、本編をご紹介させていただきましたが、長編、短編、完結、未完をとわず、多くの魅力的な作品が埋蔵?されているサイトさまであります。私メは連載中の 吸血鬼の王と少女の物語 『まどろむ赤月』 と愚王を暗殺するべく後宮に紛れ込んだ刺客がヒロインの中華風ファンタジー 『花を欺く』 に特に注目中であります♪
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