城の奥深く、ひっそりとその身を隠している高貴な客人の元に、城主夫人にしてその客人の古くからの友人である伯爵夫人が訪れる。高貴な客人の名は大皇女スューカ。傷心の彼女を慰めるために城に招き、彼女に同情し涙する夫人、しかし、うちひしがれてみえたスューカは、ふとした夫人の言葉から過去へ思いを馳せるとその瞳に再び強い光がもどってくる。「――我が人生は、幸せに語ろうと思えばいくらでも幸せに語れるし、 不幸の連続だったように語ろうと思えば、いくらでも悲劇的な物語にできる。 」その言葉のままの波乱万丈の彼女の物語…。
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ひょろりとした長身。それをさらに強調するような、小作りの逆三角形の顔と、 短く切ったざんばらの髪。栄養失調か病気なのかと見紛う極端に痩せてガリガリの、骨と皮ばかりの体躯。陽に灼けて焦げ茶色に 近い、貴族女性では到底有り得ない肌。ニコリともせず、愛想を振るということも知らず不愛想で淡泊。低いしゃがれ声で、傲然とした男言葉を喋る老皇帝のたったひとりの直系の孫娘。戦場を闊歩し、剣をふるう『将の姫』と呼ばれているスューカ19才の戦場から本編は始まります。
作品のご紹介&感想
「数奇な運命に翻弄されながらも、それに抗い生き抜いた女性の物語――。」映画や小説、ドラマの宣伝文句でよく聞くフレーズですが、まさに、この
オンライン小説にこそ、ぴったり当てはまります。
後に恋人ともなる部下アーゼルにして、とても女とは思いがたい人物だったと言わしめるスューカは、言い換えれば、とてもヒロインとは言いがたい容姿のキャラクターです。美しい容姿は女性の憧れ。女性が好む恋愛小説ではその夢を具現しているかのような美貌のヒロインが大半を占めています。しかし、この物語では、その色気のかけらもない容姿にもかかわらず、それを補って余りある魅力ゆえに、彼女が多くの男性に愛されたように、読者もまた彼女と彼女の物語にいつの間にかひきこまれてしまうのですから、おもしろさは折り紙つきです。
この上なく高貴な女性として生まれ、幼い頃は鈴を転がすような歌声の宮廷の花といわれた美しい姫だったスューカが、なぜ、声もしゃがれ、性をそぎ落としたような容貌に成長し、将の姫と呼ばれるような殺伐とした軍人としての人生を歩んでいるのか、それは彼女が背負うその運命に抗ったゆえであったことが、物語が進むにつれ、明らかになってゆきます。
異世界ファンタジーとはいえ、中世西洋風の歴史ロマンス。魔法系はでてまいりません。ただひとつの例外が、大皇女たるスューカに流れる王家の血の不思議な力です。「どこまでも生き汚い、そこまでやるのか、僕らの血脈は・・・」と、彼女の従兄弟ラセイにそう言わしめるその血は、それだけで難問が全てが解決してしまう、そんな都合のよい、そしておもしろみのない力ではなく、とてもドラマティックに物語を盛り上げながらも、そうなのかと、読者が思わず納得してしまう、説得されてしまうファンタジーならではの設定でした。
架空世界といえども、王族や貴族が登場する歴史風の作品では、文章にそれを語るにふさわしい風情がほしいし、それがないと物語に没頭できないのが常です。この作品は、幾分やわらかい文章ですが、わかりやすく読みやすく丁寧。かなりカジュアルにくだけた口調のキャラを登場させているにもかかわらず、決して物語全体のイメージをそこなったり、読者を興ざめさせません。あえて高貴な身分のキャラに下々の言葉でしゃべらせ、それがまたそのキャラを魅力的に見せている・・・そんな雰囲気でした。主要なキャラは、ヒロインスューカだけではなく、誰も甲乙つけがたいほど魅力的で個性的です。特に、仇役の存在感はすごいです。ヒロインを脅かす、生涯に渡る敵であり、全ての元凶。登場するシーンはわずかであるにも関わらず、それはもうこれでもかというくらいに、憎憎しく、不気味な存在として物語を影から支えているように思えます。
ヒロインが皇女にして将の姫ですから、シリアスに描かれた宮廷の陰謀や、戦記風のリアルな戦場の描写もあります。だからこそ、そうした過酷さや影もある人生の潤いと彩りとして、自由に奔放に彼女の恋と情事は描かれていきます。
とはいえ、物語の冒頭、19才の彼女は軍人としての天賦の才と力量とは対照的に、その年齢に比して初心で純真な女性として登場します。アーゼルへの思いをそれを恋と自覚することなく彼に訴えるスューカ。最初は本当に初々しい初恋からスタートしていくので、読者はいきなりの展開に戸惑うこともなく、少しづつこの波乱万丈の彼女の恋と物語にひきこまれてゆくのです。
オンライン小説では、一人の女性が複数の男性に求愛されるモテモテ状態の話は、逆ハー(逆ハーレム状態)と呼ばれて人気がありますし、この作品も、それに類されるに違いないのですが、最初からそれを描きたくて描かれた作品というよりも、スューカという非常に個性的で魅力的なヒロインの劇的な人生を描いていったら、自然と話の流れがそうなってしまったように感じました。作者様のねらいがどうだったにせよ、そう読者に思わせてしまうのですから、説得力のあるストーリーメーキングには脱帽します。作者さまはそれを閑話の紹介文で、「スューカは齢二〇で、自らの人生を限った。 それは可能性の削除と限定。引き替えに手にはいるのが、ささやかな自由だとしても。」と核心をつく説明なさっておられます。私は思わずなるほどと納得してしまいました。逆ハーは、説得力に余りにも欠ける不自然さが読者として許せないから嫌いだという方でも、(実ははっちもそうでした)この物語はそれに当てはまりませんので、楽しめるのではないでしょうか。
性的シーンは、羅列したマークが物語るように、突飛で特殊な性愛もあり、その描写も濃厚でかなり直接的です。ストーリーの展開上、性的にはかなり過酷な状況にヒロインは遭遇するのですが、作者さまはそれらにはそれほどページをさいておられません。事実は事実としてその後の彼女の心理にはかなり痛いものがありますが、直接的な陵辱のシーンはそれほど重くはありません。作者さまがページをさいておられるのはあくまで相愛の情事のシーンです。物語のシリアスな面とは対照的に気分転換もかねておられるのか、作者さまも非常に弾けて楽しんで描いておられるように思えます。あるいはそれらのシーンに説得力を持たせるために、あえて波乱万丈な人生をヒロインに与えているのか・・?それはさだかではありませんし好みの問題もありますが、ヒロインに魅せられ、このスューカの物語ならなんでもアリだと納得できた方ならば、情事のシーンもまたこの物語の魅力として楽しめるのではないかと思います。
スタートしたのはなんと2001年!それだけの歳月を作者さまがかけたのが納得できる大変な
大長編にして、超力作のオンライン小説です。物語はまだ連載中で、ここ一年は更新も停滞していますが、切りのいいところまでアップしていますし、なによりも、アップしている分だけでも充分読み応えがある作品です。

以下は、はっちのメル友の大皇女スューカの感想です。はっち以外の人の目に触れさせるつもりで書かれた文章ではなかったのですが、余りにすばらしい、生き生きとした感想なので、無理を言ってこちらで掲載させていただくことにしました。S様多謝!
「大皇女スューカ」は、一般的には、「不快」「お下劣」で片付けられてしまうような作品かもしれません。しかし、作者さまの、艶描写を心から愉しんでおられる明るい心と、豊かな想像力と、キャラへの深い理解でもって、堪能させてもらいました。情事場面を、あれほど濃厚過激に活写しながら、何ページにもわたって詳細に書き綴り、それを読ませる文章力には、驚嘆いたしました。
よくアダルト小説サイトなどで、妄想そのままに長々と一本調子で書いているものなどがございますが、スューカとその恋人たちの性愛場面の綿密さ、細やかさには、その手の独りよがり的ないじましさが微塵もありません。彼等がたしかにそうやって睦みあっている姿が、絡み合う汗の音や匂いがしてくるほどに、いきいきと描き出されており、その底流にある、好色への礼賛に、こちらまで温かく包まれるような心地です。
皇女を巡って入り乱れる恋人たちの、ユニークなこと、男らしいこと、ご乱交のさまの、楽しいこと優しいこと。スューカについても、不思議なほど女性から見ても反感を覚えませんし、戦闘場面においての凛々しき皇女スューカも、男わたりを繰り返すスューカも、生の汚濁とかがやかしさに満ち溢れていて、章が進むにつれて、その精一杯には魅了されてしまいます。いってみれば、「大皇女スューカ」は性とロマンのユートピアのようなものでしょうか。陰惨無残な箇所があったとしても、作品全体を覆うのは、性の深みのからりとした肯定です。スケールが大きくて、まことに続きが愉しみです。
常識人が顔をしかめて遠ざけるような、残酷鬼畜であろうとエログロであろうと、この作品においては、おおらかに性を謳い、破廉恥な人間性を愛し、それを豊かに包んで書き上げる、作者さまの器の圧勝です。健全性の勝利であると申し上げたい。好きなものを好きなように書くことの強さを、教えてもらったような気がする作品でした。
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