2008年02月 の更新履歴
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02.23 〕 水、流るる如く 〔NOVEL ファンタジー〕
大人の女性のロマンチシズムとエロチシズムを快く刺激する、恋愛小説R18などすてきなオンライン小説、
イラスト、コミックを、有名無名、年齢制限あるなしにこだわらず、はっちの感想を添えてご紹介してまいります。
女性向きですがBLはありません♪
受領の娘、澪姫に突然降って湧いた縁談話。 相手は美形陰陽師賀茂保憲だった。 半信半疑で婿殿の到来を待つ澪に保憲が告げた言葉とは…。
―――作者さま作品紹介文より
伊勢物語の中に次のような話がある―――
昔、ある男があった。たやすくは妻にできない女で、幾年にもわたって言い寄っていたのをやっとのことで手に入れた。しかし、それは女の親兄弟が許すはずのない、前途多難な恋だった。そこで男は姫君を背負って都から逃げ出す。駆け落ちした男女は芥川という川のほとりまで来る。そこで草の上に置いていた露を見、「あれはなんですの」と女が尋ねた。しかし男は逃げるのに精一杯。夜も更け、また雷も雨もひどくなってきていたので、荒れ果てて鍵もない蔵の奥に女をひとり押し込め、男はその入り口に立って弓を構えていた。しかし、夜が早く明けてほしいものだと思っているうちに、鬼が現れて女を一口で喰ってしまったのだった。「あれ」と女は叫んだのだが、雷の鳴る騒がしい音に紛れて男はその声を聞くことができなかった。ようやく夜も明けていったところで男が蔵の奥を見ると、連れてきた女が居ない。男は泣き叫んだがなんのかいもなく‥‥‥。そこで歌を詠んだ―――
『白玉か なにぞと人の 問ひしとき 露と答えて 消えなましものを』
(このようなことになると知っていたのならば、あの光るものは白玉でしょうか、何でしょうか、と芥川のほとりであの人がたずねた時に、露ですよと答えて、その露のように儚く自分も消えてしまえばよかったのに。)
女が死ぬ前に自分が死んでしまいたかったと嘆いた、ということである。
―――これは伊勢物語の六段、俗に『芥川(あくたがわ)の段』と呼ばれる段の話である。そしてこの話には真相がある―――
女というのは、徐々に権力を伸ばしつつあった藤原氏の娘で、この時すでに帝のもとに嫁ぐことが暗黙のうちに決まっていた藤原高子(たかいこ)。そして男というのは、平安時代きっての好色で、『伊勢物語』の主人公といわれている在原業平である。ふたりは互いに愛しあっていたのだが、高子を帝のもとに嫁がせてその皇子を生ませ、天皇の外戚として権力を握ろうと企む彼女の親兄弟がこの恋を許すはずがなかった。この忍び逢いが世間での噂となると女の兄たちが監視をきつくし、そのためふたりは簡単に逢うことができなくなった。ふたりは遂に駆け落ちをする。しかし、一大事を聞きつけた兄たちが女を取り返した。
―――このことを、この段では鬼のしわざといったのだった。作者、氷月 深薫様の「伊勢物語によせて」の冒頭より