小さな田舎町の農園で暮らしていた16才のジェニーの平和で牧歌的な生活はある日突然終わりを告げる。国境線を次々に塗り替えてきた隣国の好戦的な王ゴーディスがその食指を彼女の住む地方にも伸ばしてきたからだ。家族を案じて襲撃を受けた街中に飛び出したジェニーは、そこで兄が身分のありそうな男と戦い、やがて倒されるのを目撃する。兄を倒した男こそが、ゴーディス王その人だった。目の前で兄が斬られ、激昂したジェニーは自分を拘束する兵士の腕を切りつけるが、それが王の興味を惹き、気まぐれを起した王は、彼女を自国へ連れ帰る――。
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作品のご紹介&感想 一周年感謝の連日更新二日目は、
愛憎復讐系辛口オンライン小説のご紹介です。この系統の作品は大変人気がありますが、この作品をご存知の方は、そうそういらっしゃらないのではないでしょうか。投稿サイト「小説家になろう」の投稿作品ですが、検索サーチなどには登録なさっておられないご様子です。私は、偶然が重なってこの作品に出会うことができましたが、本当に幸運でした。復讐系作品がお好きな方はもちろん、そうでない方も歴史風のファンタジー作品がお好きな方であれば、間違いなく楽しませていただける
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読みやすくわかりやすく、丁寧で平易な言葉を用いて綴られた文章はとても読みやすく、分類としてはライトノベルに属すると思うのですが、物語はとても重厚、というか骨太な印象を受けます。架空史作品なのですが、構築された世界の時代や舞台背景が、読んでいてヒシヒシと伝わってくるようなシーンとその描写がすばらしく、それらが物語に奥行きと厚み、深さを与えているからだと思います。物語の冒頭、軍の侵攻に備えて、娘たちだけが街から離れたヒロインの家に集められ、不安な一夜を過ごすシーンといい、連れ去られたヒロインが王の国へと向かうその道中押し込められていた幌馬車の様子といい、連行された先の、いかにも中世の城らしい、雑然とした雰囲気といい、舞台背景場面の描写は映像的で、読者をこの作品世界へと引きこんでゆきます。
特筆すべきはそうした時代背景舞台の描写だけではありません。登場するキャラたちの人物設定、その描写にも作者さまの巧みな筆運びは発揮されています。主役の二人はもちろん魅力的ですが、彼ら二人の魅力と個性を引き立たせ、際立たせたその影の功労者は間違いなくしっかりと描かれた脇役たちの存在だと思います。なにしろ年若いヒロインといい、何を考えているかわからない王といい、二人はその内面には、不安定で未成熟な危うさを感じずにはいられないのですが、それがまた彼らの魅力となっています。一方、二人の周囲に配されたキャラたちは、王に忠誠を誓った若き側近、口うるさい女官長、冷静な侍女など、いずれもその年齢に関係なく成熟と安定を感じさせるキャラばかりです。主役の二人と脇役たちは、お互いの存在によってお互いのその個性と魅力を、一層明確に、わかりやすく読者に印象付けることに成功しているのですのですから、まさにコントラストの妙としか申せません。
物語はまだ連載中、恋愛作品とはいえ、そうそう簡単に、甘い展開にならないのがまたこの作品にふさわしくとてもイイのです。最初は征服者と虜囚として、城へ連れていかれてからは主君とその愛妾として、ヒロインの意志とは関係なく肉体的な関係を持つふたりですが、体の結びつき=心を結びつけるという安直な展開にはなりません。また、エロティックなロマンスによくあるように、ヒロインの処女を奪ったヒーローが、彼女の心はともあれ、その肉体、つまり彼女とのセックスが気に入って、以来その関係に耽溺するという風にもならないのです。今のところ情熱的とは程遠いツンデレなヒーローなのですが、それがまた、若くして諸国を睥睨している冷酷有能な王様っぽくて、とてもリアティがありました。ヒロインはヒロインで、芯の強さと気の強さ、そこそこの剣がつかえるといっても、若干16才の普通の少女として描かれております。心ならずも王の愛妾としてその褥に侍らされているとはいえ、彼女には大人の女性としての目覚めもなければ計算もなく、目的のために王に媚びることも、阿ることもせず、潔癖で頑な少女の心のままストレートにわかりやすく王に反発し彼を憎悪します。早く恋愛的な展開になって欲しい読者としては非常にじれったくももどかしいのですが、そう思うくらい、二人は、その力関係、身分の差、仇と復讐者という感情的な軋轢がある男女として、とても自然に描かれているのです。
とはいえ、この二人の間に、何かが芽生え始めていることだけは確かなようです。恋愛関係が生じる以前の二人がこれほど説得力とリアリティをもって描かれているわけですから、そんな二人の間に恋愛感情が芽生えたら(もう芽生えているのかもしれませんが)、あるいはそれを自覚したら、一体どうなるのか、それをこの作者さまはどのように描かれるのか…読者としては非常に、期待してしまいます。未成熟な部分がある二人だからこそ魅力的だと申しましたが、「恋は人を大人にする」という言葉もございます。恋情によってそんな二人が変化し成長していくのであれば、それはそれでまた別の魅力となり、物語としてもますます面白くなるに違いありません。物語は現在、大きな山場を迎えようとしています。ヒーローを激しく憎み、復讐の機会を待っていたヒロインに、千載一遇のチャンスが訪れるのです。そして、それを期に、物語は大きく動き、二人の関係も変わってゆきそうで私メはわくわくしております。ヒロインが持っていた由緒ありげな短剣、王の生い立ちや過去、物語にはまだまだ語られていない謎もあり、今後の展開が本当に楽しみな
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王 の 帰 郷
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