スカーレット
GENRE : オンライン小説 恋愛小説非R18 R指定なし
SITE NAME : 「梔 子」 http://erythronium.web.fc2.com/index.html
MASTER : 海野 細魚 様

CAUTION :




STORY ;
屋敷の中は赤く染まっていた。
からくも惨劇を逃れた私は、妹をつれ、私を助ける男と共にあてどない旅路を辿る。
曖昧な記憶の綴じ目がほどかれるとき、私が得るものはなんであろうか。
―――作者さまによる作品紹介文
作品のご紹介 :
先日、現代を舞台とした主従モノをご紹介したばかりですが、この作品もまた主従をモチーフとして描いた作品であります。しかも究極的であります。主従モノに憧れる私メの気持ちは多分にミーハー的なものでありまして、女性なら誰でも、否、人間なら誰でも持っているであろう、自分を無条件で受け入れ、尊重してくれる存在への憧憬…主従モノはそのツボを端的に突いてくるわけです。しかも、友情や恋愛、家族など、普通密度の濃い関係であれば必ず生じるであろう軋轢や衝突もなさそうで、実に居心地がよさそうです。(言ってみればイイトコドリですね)加えて申しあげれば、幼い頃読んだ名作によく登場した、主人に忠実で無償の愛と癒しを与えてくれる強くて大きくて優しい動物たち。彼らへの憧れもそれに拍車をかけていたかもしれません。
さて、そのようにミーハー的に主従モノに憧れていた私メでありますが、この作品にはガツンとやられましたです。もう、ガツンとしか申せません。酔いしれてしまうほど耽美で、胸をえぐられるように残酷で、情熱と冷酷がないまぜになったこの激しくも静謐な愛の物語の、毒と蜜に、見事にノックアウトされました。もう、最高でした!
上っ面でしか主従関係を捉えていなかった私メは忘れておりましたが、究極の主従関係とは、ただ単に自分をまるごと無条件で受け入れ尊重してくれる存在が、仕え守り忠誠を尽くしてくれるという夢のように居心地がよく、都合がよいだけの関係ではなく、同じ人間でありながら、支配するものと支配されるもののという、ある意味非常に歪な関係性が根幹にあったのです。歪ではあっても、両者の間に明確な契約、代償とも言うべきものがあれば、その歪さもそれほど歪んでは見えません。労働の対価としての金銭、忠誠の対価としての碌や領土や身分、あるいは生命と財産の保護、またはその恩義。それらは皆、主の側に何らかの優位性があってはじめて生じる関係です。主たる支配者の側に与えられる力、ものがあるからこそ、従者は支配されるものとしてその前に膝を折るわけですから。
けれども、支配する側に、主の側に、与えられるべきものや力がなくなったとしたらどうでしょう?遠からず下克上、主への離反が避けえないことは歴史が証明しております。少なくとも、支配、被支配の厳然たる上下の関係性は崩れてしかるべきでしょう。
帰るべき家を失い、逃避行を続けるヒロインには、寡黙な従者に与えられるものは何もありません。かっては存在した身分の差など、それを裏打ちすべきものを失ったヒロインと従者にとって意味などないに等しく、それでも尽くすべき恩義や、主従の強い絆が、二人の間にあるとも思えません。しかし、彼女に仕え、彼女を守る彼に邪心は感じられず、謎めいてはいても、その姿は忠実な従者以外の何者でもないのです。物語が進むに連れて、この、名さえない、従者の存在感はじわじわと重く、深く物語を支配してゆきます。従者へ依存せざるをえないヒロインの不安と焦燥、その揺れ動く複雑な心情は、そのまま読者へと投影され、この謎を秘めた従者と物語へ否応なしに引き込まれてゆくのです。遠い記憶の隙間から、ちらちらと垣間見える過去と真実、それに翻弄され怯えるヒロイン。やがて迎えた物語のクライマックスで、何ゆえにこの従者がヒロインに仕えてきたのか、彼女は彼を支配するべき何をもっていたのかがようやく明かされます。蓄積された不安と謎が大きかったからこそ、それはヒロインのみならず、物語に引き込まれ、読み進んできた読者である私メにとってもある種の解放ともいえるシーンでした。一連のシーンの過激ともいえる残酷さ、それでも鮮烈で目(?)を離せない禍々しい美しさ、それらはこのドラマティックな物語のクライマックスにふさわしいものでしたが、同時にそれは、二人の今までの関係の終焉であり、転換でもあったのです。
圧巻は、全てが終わった後の従者の慟哭ともいうべき緋色のエピローグでした。ダークな物語でありながら、その色濃く、鮮やかで鮮烈な印象と官能美はもうすばらしくて最高です。無駄がなく簡潔な文章は読みやすく、それでいてこの薫り高い作品にふさわしく美しいです。読ませる文章、読者を引きずりこむ?ストーリーメーキングと描写の見事さは引きずり込まれて嬉しいとしか申せません。これほど深い感動を味わったのは本当に久々でありました。ダークでドラマティックな大人の激辛作品がお好きな方であれば、私メと感想を同じくしてくださるのではないかと存じます。
海野 細魚様のサイトはこちら


先日、現代を舞台とした主従モノをご紹介したばかりですが、この作品もまた主従をモチーフとして描いた作品であります。しかも究極的であります。主従モノに憧れる私メの気持ちは多分にミーハー的なものでありまして、女性なら誰でも、否、人間なら誰でも持っているであろう、自分を無条件で受け入れ、尊重してくれる存在への憧憬…主従モノはそのツボを端的に突いてくるわけです。しかも、友情や恋愛、家族など、普通密度の濃い関係であれば必ず生じるであろう軋轢や衝突もなさそうで、実に居心地がよさそうです。(言ってみればイイトコドリですね)加えて申しあげれば、幼い頃読んだ名作によく登場した、主人に忠実で無償の愛と癒しを与えてくれる強くて大きくて優しい動物たち。彼らへの憧れもそれに拍車をかけていたかもしれません。
さて、そのようにミーハー的に主従モノに憧れていた私メでありますが、この作品にはガツンとやられましたです。もう、ガツンとしか申せません。酔いしれてしまうほど耽美で、胸をえぐられるように残酷で、情熱と冷酷がないまぜになったこの激しくも静謐な愛の物語の、毒と蜜に、見事にノックアウトされました。もう、最高でした!
上っ面でしか主従関係を捉えていなかった私メは忘れておりましたが、究極の主従関係とは、ただ単に自分をまるごと無条件で受け入れ尊重してくれる存在が、仕え守り忠誠を尽くしてくれるという夢のように居心地がよく、都合がよいだけの関係ではなく、同じ人間でありながら、支配するものと支配されるもののという、ある意味非常に歪な関係性が根幹にあったのです。歪ではあっても、両者の間に明確な契約、代償とも言うべきものがあれば、その歪さもそれほど歪んでは見えません。労働の対価としての金銭、忠誠の対価としての碌や領土や身分、あるいは生命と財産の保護、またはその恩義。それらは皆、主の側に何らかの優位性があってはじめて生じる関係です。主たる支配者の側に与えられる力、ものがあるからこそ、従者は支配されるものとしてその前に膝を折るわけですから。
けれども、支配する側に、主の側に、与えられるべきものや力がなくなったとしたらどうでしょう?遠からず下克上、主への離反が避けえないことは歴史が証明しております。少なくとも、支配、被支配の厳然たる上下の関係性は崩れてしかるべきでしょう。
帰るべき家を失い、逃避行を続けるヒロインには、寡黙な従者に与えられるものは何もありません。かっては存在した身分の差など、それを裏打ちすべきものを失ったヒロインと従者にとって意味などないに等しく、それでも尽くすべき恩義や、主従の強い絆が、二人の間にあるとも思えません。しかし、彼女に仕え、彼女を守る彼に邪心は感じられず、謎めいてはいても、その姿は忠実な従者以外の何者でもないのです。物語が進むに連れて、この、名さえない、従者の存在感はじわじわと重く、深く物語を支配してゆきます。従者へ依存せざるをえないヒロインの不安と焦燥、その揺れ動く複雑な心情は、そのまま読者へと投影され、この謎を秘めた従者と物語へ否応なしに引き込まれてゆくのです。遠い記憶の隙間から、ちらちらと垣間見える過去と真実、それに翻弄され怯えるヒロイン。やがて迎えた物語のクライマックスで、何ゆえにこの従者がヒロインに仕えてきたのか、彼女は彼を支配するべき何をもっていたのかがようやく明かされます。蓄積された不安と謎が大きかったからこそ、それはヒロインのみならず、物語に引き込まれ、読み進んできた読者である私メにとってもある種の解放ともいえるシーンでした。一連のシーンの過激ともいえる残酷さ、それでも鮮烈で目(?)を離せない禍々しい美しさ、それらはこのドラマティックな物語のクライマックスにふさわしいものでしたが、同時にそれは、二人の今までの関係の終焉であり、転換でもあったのです。
圧巻は、全てが終わった後の従者の慟哭ともいうべき緋色のエピローグでした。ダークな物語でありながら、その色濃く、鮮やかで鮮烈な印象と官能美はもうすばらしくて最高です。無駄がなく簡潔な文章は読みやすく、それでいてこの薫り高い作品にふさわしく美しいです。読ませる文章、読者を引きずりこむ?ストーリーメーキングと描写の見事さは引きずり込まれて嬉しいとしか申せません。これほど深い感動を味わったのは本当に久々でありました。ダークでドラマティックな大人の激辛作品がお好きな方であれば、私メと感想を同じくしてくださるのではないかと存じます。
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