落 陽 記
GENRE : オンライン小説 恋愛小説非R18 R指定なし
SITE NAME : 「小説家になろう」 投稿作品
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MASTNER : ココナッツ 様

CAUTION :


STORY ;
玉兔は寧国の最後の王女であり巫。国を滅ぼされ、敵国、興へと将軍陶雄元に連れて行かれることに。聖地、金烏宮殿で囚われの身となった彼女は、金の足枷をした公子と出会い興国の盛衰に関わっていく...。
―――作者さま作品紹介文より
作品の感想とご紹介
異世界中華風ファンタジーとしては、はっち的には久々の大ヒット作品であります!漢字を国名や人名にあてた中華風ファンタジー作品は、カタカナのそれである西洋風ファンタジー作品に比べると、どうしても、求めるものが高くなってしまう私メ。もともと中国史を題材とした作品のファンなだけに、それらに共通する漢文的魅力、簡潔かつ的確でありながら、ストイックで高雅―そんな文章と雰囲気がなければ、どうしても物語に浸れないし酔えない私が、どっぷりつかっております、最高ですよん。しかも、連載中とはいえ、オンノベファンが泣いて喜ぶ脅威の連日更新!あらゆる意味で、嬉し有難しのサイトさまであり作品であります。
とにかく、キャラが魅力的です。ヒロインの玉兎は敗戦国の公主にして巫女姫なのですが、彼女がとてもイイのです。彼女は、太陽のかんなぎと呼ばれ、その体に聖なる烙印をもつ巫女でもあるのですが、聖なる烙印を体にもつ巫女にしては、彼女の内面は、生身の若い娘らしい欠点と魅力が多いにあります。高貴な生まれと育ちからすれば当然かもしれませんが、誇り高い彼女の言動は、虜囚の身であるにも関わらず、かなり傲慢で横柄。けれどもいくら尊大な態度をとっても、それは子どもじみていて邪気がなく、それゆえに妙に人間臭くも可愛らしく思え、反感ではなく親近感を読者に抱かせるのです。そんな人間くささは失わないでいるのに、国を滅ぼされ、父母を殺されたにも関わらず、その仇であるヒーローを憎悪し、私怨に心を穢すには巫女たる彼女の心は清浄すぎるという設定も新鮮でした。質として囚われの身ではあっても、心は何にも囚われず自由でありたいと願う彼女ですが、ヒーローたる雄元への複雑な感情も芽生え始めております。その身に与えられた聖なる巫女としての霊性と、心に抱く生身の人間としての感情、どうやらそれらは彼女の中でまだ折り合い?がついていないようで、そのアンバランスさが、彼女に危うい、そして不思議な魅力を与えています。
そんな彼女の魅力に魅せられてしまうのは読者だけではありません。横柄に見えても、ヒロインに邪気はなく、それが育ちのよさと大人になりきれていない彼女の若さゆえとわかっている年長の男性にとっては、ツンケンした彼女の言動など痛くも痒くもないでしょうし、かえって可愛いばかりかもしれません。しかも、いつもはタカビーでツンツンしている若く美しいヒロインが、邪気や作為がないからこそ、時折り無防備に素顔を見せ、懐いてきたら、男として心動かされ、懐に入れたくなるのは当然のような気が致します。巷で噂のツンデレ系?の魅力とは、このヒロインのようなキャラのことを言うのではないかと思いました。ヒーローの若き将軍雄元をはじめとして、登場する主要な男性キャラはいずれも、そんな彼女のツンデレ系?の魅力にあてられ、少なからず心囚われてゆくようなのですが、それがとても自然に感じられました。
先に述べたように、ヒロインはその体に聖なる烙印をもつ希有な存在の巫女姫です。地に落とされた天帝の子とされる彼女に、人が、つまり男性が触れることは許されていません。ヒロインに心惹かれるヒーローは、占いも神も天帝も信じていない現実主義者ですが、それでもやはり簡単には彼女を我が物にするわけにはいきません。名門の惣領として生まれ、実質上の国の最高権力者でもあり、また、今まで望んで得られなかったものは何一つないこのヒーローが、ヒロインを得られないジレンマに少なからず苦しむのですが、そのジレジレ感が実にヨイのです。性愛のシーンも描写もないにも関わらず、触れることを許されない存在であるヒロインを求めずにいられないヒーローの心情や、それが抑えきれずに禁忌を侵して思わず彼女に触れてしまうシーンなどは実に官能的な雰囲気がありました。本編はまだ連載中。ヒロインもまたヒーローに心惹かれ始めているようですが、まだ巫女としての矜持と天帝への畏敬が勝り、また少女の潔癖と若さゆえに、彼女はその心を抑えているようですが、二人の関係がこの先どのようになるのか、実に楽しみです。
主役の二人以外にも、多彩で魅力的なキャラが多く登場します。ヒーローたる雄元の対極にあるような存在である金烏公子、隷。意味深長な名を持ち、両脚に金と宝石で飾られた足枷をつけられたこの白髪の貴公子もまた、ヒロインと同じく、聖なる烙印をもつ太陽のかんなぎです。稀有な巫女ではあっても人間味のあるヒロインとは対照的に、彼は、生身の人間とは思えないほどの霊性と不思議を持つ人物として描かれていますが、謎めいた彼の存在感は大きくこの物語を影から支配しているのはもしかしたら、彼かもしれません。巫女たるヒロインに不吉な予言をされたヒーローの腹心だの、ヒロインに若者らしい憧憬をいだくヒーローの従兄弟だの脇役もまた味があります。また、物語の前半にまだ一場面しか登場しておりませんが、ヒロインの幼馴染で、ヒーロー雄元の国と敵対する騎馬民族の国の公子もまた気になります。一瞬であってもヒロインとの浅からぬ関係を暗示したその存在感はやはり大きく、この後の登場によって、物語がどう動いていくのかこれもまた実に楽しみであります。また、本日の更新によって、ヒーローの婚約者らしき女性も登場いたしました。彼女の登場によって、いよいよ、ヒロインもヒーローへの気持ちを認識せざるを得ないようでそれがまた楽しみであります。
国の興亡をめぐる物語でもあり、ダイナミックで緻密な舞台設定と描写はこの物語の大いなる魅力です。淡々と紡がれてゆく中国の史実を描いた叙事詩もかくやと思わせるほどの説得力と迫力がある物語。やや硬質な雰囲気はあるものの癖のない、だからこそ素直な品と格を感じる文体は、わかりやすく読みやすく、無理なく読者をこの物語世界に引き込んでゆきます。特に、その硬質な文体が、短く的確な語句を用いて記す心理描写は、はっち的には鼻血モノ?です!無駄のないストイックな表現だからこそ、その印象は一層深く、強くなり、抑えた筆致であるからこそ行間から湧き上がる情感、余韻も最高です。
中国古代史がそうであったように、この物語世界でも多くの血が流され、時に死臭がすると巫女姫に疎まれるほどヒーローの剣は、その勲と力にふさわさしく血に汚れているのですが、それでいて、物語自体の雰囲気は静謐であり、耽美な残酷はあっても、疎ましいほどの血なまぐささは感じません。戦記モノや、歴史モノが苦手な方であっても、恋愛作品がお好きな方であれば、充分楽しませていただける作品であるかと存じます。そしてもちろん、戦記モノや歴史モノがお好きな方であれば、太鼓判を押してオススメ致します!【2008.8.完結】
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