泉のラメイン

秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集 第1夜
GENRE : オンライン小説 恋愛小説非R18 R指定なし
SITE NAME : z o e ( ツオエ) http://xxc.main.jp/zoe/
MASTNER : シ ド ウ ユ ヤ 様
CAUTION :


STORY ;
いまは廃墟となっているケルネの城。その城が栄えた昔には清水を湛えたが、今は塩辛い水しかわかぬラメインの泉。泉の乙女ラメインと美々しい騎士マルタン、二人の恋と滅びた城の物語。
作品のご紹介 :
オリンピックもお盆も終わり、めっきり涼しくなってまいりました。夏の暑さにだらけているうちに、ななんと、10万ヒット!ありがとうございます。すっかり怠け癖がついたはっちでありますが、10万ヒットと秋の訪れに背中を押されて、気分を新たに新企画、『秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集』を、お届けしたいかと存じます。その第一夜は、秋の夜に読むにふさわしい、中世ヨーロッパ風のダークで哀切な本編であります。
ウンディーヌ、ローレライ、サイレーン、人魚、なぜか水魔水妖の類は昔から女性とされております。まあ、船乗りは男性がほとんどでしたから、彼らを惑わして水底へひきずりこむとしたら、やっぱりうら若く美しい女性の姿をもっていなければダメなのでしょう。しかも伝説の多くは、それらの妖しは元は美しくうら若い人間の女性だったとされています。失意の内に命を落とした美しい乙女が、自分を裏切った恋人への恨みと恋しさから、死後は男たちを誑かし命を奪う魔物となる―伝説の多くはそう語っています。水魔ではありませんがバレエのジゼルもまたそのパターンですね。
生まれた土地にFixされて生きるのが普通であった昔なら、水難事故に遭う男といえば、地元の漁師でなければ、船乗りや商人、芸人、軍人などいずれも、堅気とは言い難い流動的な生活をしていたであろう男たち。そういう男たちであれば、訪れた土地で気まぐれに愛をささやき恋をして、迎えにくるという言葉だけを残して捨てた世間知らずの若い娘の一人や二人はいても当たり前だったりして。そうではなくとも、船旅や水遊びをするだけの財力と身分のある男であれば、若い頃そんな経験があっても不思議はない気がします。
これっていかに男たちが古来より乙女の純情を弄び裏切ってきたかという証しでしょうか。あるいは男たちの罪悪感の現われと見るのは穿ちすぎ?それとも、娘たちにそんな不実な堅気でない男たちを愛する愚、まして結婚前に純潔を捧げてしまう罪深さを戒めていたのでしょうか?どうせ死ぬなら、うら若く美しい乙女、もしくは昔の恋人に命を奪われたいという願望はわかる気が致しますが、どちらにせよ、生前は、恋人の不実と傲慢に嘆くしかなかったか弱き立場の乙女が、死後は、男たちの命を握る美しくも怖ろしい魔物になるという逆転の構図は、おもしろいです。
ローレライの甘い歌声は男たちにしか聞こえず、彼女たちを怖れ敬う地元の漁師は、問題の難所には絶対に近づかなかったと言われています。本編でも妻や恋人、女と共寝している男には歌声が聞こえないという設定でありまして、つまりは伴侶に誠実な堅気の男だけはお目こぼししてもらえるというそれはとても暗示的でした。
さて本編のヒロイン、泉の乙女ラメインは、確かに人とは思えぬ娘ですが、そんな怖ろしげな魔物ではないようです。とはいえ、その美しさで騎士の心を一目で奪っておきながら、未通女(おぼこ)い彼女は恋を知らず、なにより彼に心奪われている暇などないために、騎士がいかにその思いの丈をこめて熱く愛を語っても、彼の心をかき乱し、苦しめていることにさえ気づいていません。残酷なまでに無邪気な彼女は、やっぱり魔性の女かも…。騎士物語そのもののような高雅な騎士の語り口と、ちょっとだけ土くささのある乙女の口調。騎士と乙女の会話はそのあたりの雰囲気を伝えてきて絶妙ですし、童話的な雰囲気のある地の文といい、とてもよいのです。
泉の乙女は、その無邪気さゆえに、雄々しい騎士の心を引き裂き、心引き裂かれた騎士の悲痛な拒絶で初めて愛を知り、そして、泉の水を涙で塩辛く変えてしまうのです。領主への愛ゆえに、ケルネの城を海の底に沈めてしまおうとする赤い髪の美女、領主のかっての恋人がまたヨカッタです。
生(き)のままの童話には、常に生々しい残酷さがどこかに潜められているものですが、愛された乙女たちの美しさとは対照的な領主夫人の末路とその描写にはそれを感じました。若さを失い、美しくもなく愛されてもいない、また愛している者もいない女の憐れさ、そしてその滑稽さと疎ましさは、この童話的な物語の美しさを残酷に引き立てる影となり、とても印象的でした。
★新館でも開催中 『秋に読みたい大人のメルヘン特集 』 はこちら からシドウユヤ様のサイトはこちら


オリンピックもお盆も終わり、めっきり涼しくなってまいりました。夏の暑さにだらけているうちに、ななんと、10万ヒット!ありがとうございます。すっかり怠け癖がついたはっちでありますが、10万ヒットと秋の訪れに背中を押されて、気分を新たに新企画、『秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集』を、お届けしたいかと存じます。その第一夜は、秋の夜に読むにふさわしい、中世ヨーロッパ風のダークで哀切な本編であります。
ウンディーヌ、ローレライ、サイレーン、人魚、なぜか水魔水妖の類は昔から女性とされております。まあ、船乗りは男性がほとんどでしたから、彼らを惑わして水底へひきずりこむとしたら、やっぱりうら若く美しい女性の姿をもっていなければダメなのでしょう。しかも伝説の多くは、それらの妖しは元は美しくうら若い人間の女性だったとされています。失意の内に命を落とした美しい乙女が、自分を裏切った恋人への恨みと恋しさから、死後は男たちを誑かし命を奪う魔物となる―伝説の多くはそう語っています。水魔ではありませんがバレエのジゼルもまたそのパターンですね。
生まれた土地にFixされて生きるのが普通であった昔なら、水難事故に遭う男といえば、地元の漁師でなければ、船乗りや商人、芸人、軍人などいずれも、堅気とは言い難い流動的な生活をしていたであろう男たち。そういう男たちであれば、訪れた土地で気まぐれに愛をささやき恋をして、迎えにくるという言葉だけを残して捨てた世間知らずの若い娘の一人や二人はいても当たり前だったりして。そうではなくとも、船旅や水遊びをするだけの財力と身分のある男であれば、若い頃そんな経験があっても不思議はない気がします。
これっていかに男たちが古来より乙女の純情を弄び裏切ってきたかという証しでしょうか。あるいは男たちの罪悪感の現われと見るのは穿ちすぎ?それとも、娘たちにそんな不実な堅気でない男たちを愛する愚、まして結婚前に純潔を捧げてしまう罪深さを戒めていたのでしょうか?どうせ死ぬなら、うら若く美しい乙女、もしくは昔の恋人に命を奪われたいという願望はわかる気が致しますが、どちらにせよ、生前は、恋人の不実と傲慢に嘆くしかなかったか弱き立場の乙女が、死後は、男たちの命を握る美しくも怖ろしい魔物になるという逆転の構図は、おもしろいです。
ローレライの甘い歌声は男たちにしか聞こえず、彼女たちを怖れ敬う地元の漁師は、問題の難所には絶対に近づかなかったと言われています。本編でも妻や恋人、女と共寝している男には歌声が聞こえないという設定でありまして、つまりは伴侶に誠実な堅気の男だけはお目こぼししてもらえるというそれはとても暗示的でした。
さて本編のヒロイン、泉の乙女ラメインは、確かに人とは思えぬ娘ですが、そんな怖ろしげな魔物ではないようです。とはいえ、その美しさで騎士の心を一目で奪っておきながら、未通女(おぼこ)い彼女は恋を知らず、なにより彼に心奪われている暇などないために、騎士がいかにその思いの丈をこめて熱く愛を語っても、彼の心をかき乱し、苦しめていることにさえ気づいていません。残酷なまでに無邪気な彼女は、やっぱり魔性の女かも…。騎士物語そのもののような高雅な騎士の語り口と、ちょっとだけ土くささのある乙女の口調。騎士と乙女の会話はそのあたりの雰囲気を伝えてきて絶妙ですし、童話的な雰囲気のある地の文といい、とてもよいのです。
泉の乙女は、その無邪気さゆえに、雄々しい騎士の心を引き裂き、心引き裂かれた騎士の悲痛な拒絶で初めて愛を知り、そして、泉の水を涙で塩辛く変えてしまうのです。領主への愛ゆえに、ケルネの城を海の底に沈めてしまおうとする赤い髪の美女、領主のかっての恋人がまたヨカッタです。
生(き)のままの童話には、常に生々しい残酷さがどこかに潜められているものですが、愛された乙女たちの美しさとは対照的な領主夫人の末路とその描写にはそれを感じました。若さを失い、美しくもなく愛されてもいない、また愛している者もいない女の憐れさ、そしてその滑稽さと疎ましさは、この童話的な物語の美しさを残酷に引き立てる影となり、とても印象的でした。
★新館でも開催中 『秋に読みたい大人のメルヘン特集 』 はこちら からシドウユヤ様のサイトはこちら


