幻想譚 「Kirill」

秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集 第3夜
GENRE : オンライン小説 恋愛小説非R18 R指定なし
SITE NAME : viscaria http://viscaria.ifdef.jp
MASTER : 汐 崎 雪 野 様 ご紹介作品一覧


CAUTION :



STORY ;
「罪ほろぼしのため、と思うがいい」
草原の民の年若い第三王子は、海の都から嫁いできた新妻にそう打ち明ける。
「貴女が僧院で一生を過ごすのは気の毒だと、そう思った」
彼女は、母の仇として彼が殺めた次兄の許婚であった。
「この胸に踊る火を鎮め、解き放つには、静かに湛えられた清い水がいる。 海の都から来た貴女が側にいてくれると、それも叶うような気がする」
年若い夫は、そう言って優しい妻の膝で微睡むが、彼の内で燃え盛る火を鎮めることは、海の都の姫である彼女にも叶わなかった――。
――本文より一部抜粋
作品のご紹介と感想:
おそらくは、読書に慣れた方であれば、10分とかからず読み終わってしまうかもしれない短い物語。けれども、この短い物語に凝縮されたものは、深くて、美しくて、痛ましくて、悲しくて、切なくて、泣けます。短い物語でありますので、あまり多く語ってしまうと、ネタバレになってしまって、お楽しみを半減させてしまうので、今回は詳しいご説明は省かせていただきますが、とにかくイイです。
草原に嫁いできた嫋やかで優しい海の民の姫。彼女を迎えた、凛々しく、雄々しい、けれども、胸の奥に燃える火を自身でも持て余していた年若い夫。姿も心も優しい妻を迎えても、彼の業火を鎮めることはできず、そして――!!。あ~ん、もう、これ以上は申せません!
以前より、この作者さまの美しい文章には心酔しきっているはっちでありますが、この映像的な描写力と、それを深い情緒をもって、読者の胸に蘇らす筆力には本当にうっとりするしかありません。SSなだけに展開が、早く、前半だけですっかりキャラに感情移入してしまった読者としては、えぇぇ~、そ、そんなぁ~っと、うろたえているうちに、作者さまは、潔く、ばっさりと、「起承転結」の理にそって物語りを進めていってしまわれます。この、ある意味、置いてけぼり感?がより一層にやるせなく、痛ましく、切なく、読者の胸をかきむしります。
物語の「起」、「承」、である前半には、なんとも印象的な会話が主役の二人の間にあるのとは対照的に、「転」、「結」にあたる後半では、二人に多くを語らせずに物語は進みます。会話もなく、心情描写もなく、否、ないからこそ、読者は、その鮮烈で、哀切で、そして残酷なシーンの美しくも見事な描写に、言葉として語られている以上の情感を煽られ、深く、胸にしみていくものがありました。この読後感はまさしく秋にふさわしい!ご紹介の作品は 【完結済み物語】 にございます。
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