嵐の夜 散らぬ花

秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集 第7夜
GENRE : オンライン小説 恋愛小説非R18 R指定なし
SITE NAME : 「梔 子」 http://erythronium.web.fc2.com/index.html
MASTER : 海野 細魚 様

CAUTION :


STORY ;
近づいたら呪われるよ。
近隣の村でそう囁かれ誰も足を踏み入れようとしない森。
その魔の森の奥まで深い傷を負って逃れてきた男を救ったのは、一人の魔女であった。
―――作者さまによる作品紹介文
作品のご紹介 :
突発的に始めた、この『秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集』でありますが、次回のご紹介で終了の予定です。ところが、企画の終了を目前にして、「しまった!この特集は一ヶ月早すぎた…!」とちょっとだけ悔やんでいるはっちであります。なぜって、皆様、9月も終わりに近づいてまいりますと、ネットではそろそろハロウィーン仕度?をするところなどもちらほら―そういう私メも楽屋裏の方はすっかりハロウィーン仕様に模様替えしたのですが、ハロウィーンとくれば魔女です!もちろんかぼちゃも必須アイテムですが、必須キャラは魔女です!そして、メルヘンとくれば魔女が登場するものと十八番が決まっております。今までご紹介した作品でも、魔女が登場した作品もそうでないものも、魔やら妖しやら不思議やらの雰囲気はたっぷり味わっていただけたかと思いますが、魔女らしい魔女という意味では本編は真打なのです。そして、本編もまた、私メの念頭にあったからこそこの特集を企画したともいえる作品の一つであります。
イイですよぉ~何がイイって、もうこれまたはっち的には全てです。例えば、音楽で、長調の曲と短調の曲がありますが、どちらかといえば聞きなれた音階でスムーズに流れ、伝わるべきもの、伝えたいものがストレートに伝わってくる長調の曲。それに比べて、半音下がった微妙な調べが、どことなく人の五感を裏側から刺激し、その不安定さ?がなんとも言えずに官能的でもありドラマティックにも感じられることが多い短調の曲。(これって短調の曲=トッカータとフーガをすぐさま連想してしまう、音楽的な素養はなきに等しいはっちの勝手な思い込みだったらお許しくださいませ~)
ともかくです、思い込みだろうが何だろうが、短調の名曲を聴いた時に感じた興奮に近いものを、この作品には覚えました。低く静かに抑えながらもその奥にある豊かさと広さ、深さを予感させる前奏曲にも等しいオープニング――もうそこからして、この物語の独特の調べと雰囲気に呑まれ、あっという間に引き込まれた私メは、あとはもうその後のドラマティックな展開に我を忘れて夢中になり、最後までこの物語世界に浸りきって酔い痴れるしかありませんでした。
嵐の夜、森の奥に一人すむ年若い魔女の小屋の戸を叩くものがいます。この小屋に助けを求めてきた者は、なんであれ助けなければならない―それは、今は亡き師が残した教え。そしてまた、幼い昔に自身もそうして助けられた経験のある彼女は小屋の戸を開け、血まみみれの剣を手にした深手を負った若者の命を助けます。鉄と血、それは静謐で清浄であるべき森が最も忌み嫌うもの。賢き鷹から森の娘と呼ばれ、森の恵みに育まれて一人静かに生きてきた娘ですが、その森が最も忌み嫌う、鉄と血の宿命を帯びたこの若者を助けたことから、彼女の運命は大きく変わってゆきます。若者は暗殺者の手を逃れた王子。やがて快癒した彼は、森を後にし、その宿命に従って覇道を極めてゆくのですが、王となった後、娘が拒んだにも関わらず、彼女を森から連れ出そうとし、――。
おっとっと…、これ以上申しあげてしまうと、皆様のお楽しみを減らすことにもなりかねません。ともかくも、ドラマティックで、ロマンティックなストーリーは、これでもかと、大人の乙女の心を鷲づかみにしてしまう要素に溢れております。
作者さまご自身は、童話調な文体を目指したのに、最後までそれを貫けなかったとご述懐なさっておられますが、そんなこたぁ~あ、あ~りません!それはご謙遜が過ぎるというものです!はっちは、この一文一文が、短く端的で簡潔、それでいて強さと潔さを激しく感じさせる文章に完全にヤラレマシタ!まさしく作者さまが目指されたところの、童話的、民話的、説話的な雰囲気を私メはヒシヒシと感じ、それを堪能させていただきました。ヒロインの気質をそのまま表すかのような、ストイックなまでに感情の流出を抑えた文章。けれども、行間からは、深く、静かに情感と情緒が滲み出て、とにかくその雰囲気に陶酔シマシタ。イインですよぉ~。
キャラも最高です。森の賢者を友とし、欲とも俗とも無縁の育ちで、長く人と接することのなかったヒロインは自身を魔女と自称する割にはちっともそれらしくありませんが、それにしてもいつまでたってもどこか浮世離れした風が抜けません。それでいて、厳しい森の環境の中で一人で生きてきたせいか、彼女はとても現実的で冷静なリアリストの一面を持っていて、これが彼女に深みのある人間的な魅力を加味しております。彼女が単なる聖女さまになってしまったら、この物語はここまでおもしろくはならなかったと思います。聖女でも魔女でもないながら、なにがしかの神秘と不思議を持った娘ではあり、森の無欲と静謐、清浄の気配とその守護は、彼女が森から離れても失うことはありませんでした。それとは対極に位置する、人の世の汚濁と力を象徴する―鉄と血、そして火、その中で生きる王は、だからこそ彼女に惹かれ、求める気持ちが抑えきれないというのがまたヨカッタです。この王様が、まあ、覇道を歩んでいるわけですから、その冷酷非情なこと、この上ないのですが、そういう男が、自分とは全く正反対の存在である愛する女にだけは甘くなるという設定は、実にはっち好みでありました。相容れないものを感じた娘は王を拒もうとするのですが、それでもそこには男女の情愛が存在するわけです。そのあたりの葛藤やら諦観やらすれ違いやらがもうはらはらドキドキじれじれと最高に楽しませていただけましたし、だからこそ、それらを全て飲み込んで、一時その情愛に身を任せあう二人のシーンなどは実にドラマティックであり、一層官能的に思えました。
異世界ファンタジーでありますが、作中、過去キリスト教が新興していった時代と同じく、古き神、またそれを奉じていた人々が徐々に押しのけられてゆく様子が物語の背景として描かれておりまして、それらは実に説得力がありました。娘の故郷である森―くしくも、本編でもそれは黒い森とされております。かって、キリスト教が破竹の勢いで土着の神や信仰を飲み込んでいった時代にも、あのヨーロッパの中央にある黒い森は、その広大さゆえに壁となって立ちふさがり、その侵攻を最後の最後まで拒み続けたに違いない―そんな思いを新たに致しました。とはいえ、物語の宗教色?はそれほど濃いものではありませんので、それが苦手な方であっても充分容認できる程度であると思います。なによりも、そうした舞台背景、設定を説得力を持って描かれたからこそ、物語としての深さ、おもしろさが増した作品であります。同一のモチーフを用いた別作品、短編 『塔』 もまた、おススメであります。
★新館でも開催中 『秋に読みたい大人のメルヘン特集 』 はこちら から海野 細魚様のサイトはこちら

突発的に始めた、この『秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集』でありますが、次回のご紹介で終了の予定です。ところが、企画の終了を目前にして、「しまった!この特集は一ヶ月早すぎた…!」とちょっとだけ悔やんでいるはっちであります。なぜって、皆様、9月も終わりに近づいてまいりますと、ネットではそろそろハロウィーン仕度?をするところなどもちらほら―そういう私メも楽屋裏の方はすっかりハロウィーン仕様に模様替えしたのですが、ハロウィーンとくれば魔女です!もちろんかぼちゃも必須アイテムですが、必須キャラは魔女です!そして、メルヘンとくれば魔女が登場するものと十八番が決まっております。今までご紹介した作品でも、魔女が登場した作品もそうでないものも、魔やら妖しやら不思議やらの雰囲気はたっぷり味わっていただけたかと思いますが、魔女らしい魔女という意味では本編は真打なのです。そして、本編もまた、私メの念頭にあったからこそこの特集を企画したともいえる作品の一つであります。
イイですよぉ~何がイイって、もうこれまたはっち的には全てです。例えば、音楽で、長調の曲と短調の曲がありますが、どちらかといえば聞きなれた音階でスムーズに流れ、伝わるべきもの、伝えたいものがストレートに伝わってくる長調の曲。それに比べて、半音下がった微妙な調べが、どことなく人の五感を裏側から刺激し、その不安定さ?がなんとも言えずに官能的でもありドラマティックにも感じられることが多い短調の曲。(これって短調の曲=トッカータとフーガをすぐさま連想してしまう、音楽的な素養はなきに等しいはっちの勝手な思い込みだったらお許しくださいませ~)
ともかくです、思い込みだろうが何だろうが、短調の名曲を聴いた時に感じた興奮に近いものを、この作品には覚えました。低く静かに抑えながらもその奥にある豊かさと広さ、深さを予感させる前奏曲にも等しいオープニング――もうそこからして、この物語の独特の調べと雰囲気に呑まれ、あっという間に引き込まれた私メは、あとはもうその後のドラマティックな展開に我を忘れて夢中になり、最後までこの物語世界に浸りきって酔い痴れるしかありませんでした。
嵐の夜、森の奥に一人すむ年若い魔女の小屋の戸を叩くものがいます。この小屋に助けを求めてきた者は、なんであれ助けなければならない―それは、今は亡き師が残した教え。そしてまた、幼い昔に自身もそうして助けられた経験のある彼女は小屋の戸を開け、血まみみれの剣を手にした深手を負った若者の命を助けます。鉄と血、それは静謐で清浄であるべき森が最も忌み嫌うもの。賢き鷹から森の娘と呼ばれ、森の恵みに育まれて一人静かに生きてきた娘ですが、その森が最も忌み嫌う、鉄と血の宿命を帯びたこの若者を助けたことから、彼女の運命は大きく変わってゆきます。若者は暗殺者の手を逃れた王子。やがて快癒した彼は、森を後にし、その宿命に従って覇道を極めてゆくのですが、王となった後、娘が拒んだにも関わらず、彼女を森から連れ出そうとし、――。
おっとっと…、これ以上申しあげてしまうと、皆様のお楽しみを減らすことにもなりかねません。ともかくも、ドラマティックで、ロマンティックなストーリーは、これでもかと、大人の乙女の心を鷲づかみにしてしまう要素に溢れております。
作者さまご自身は、童話調な文体を目指したのに、最後までそれを貫けなかったとご述懐なさっておられますが、そんなこたぁ~あ、あ~りません!それはご謙遜が過ぎるというものです!はっちは、この一文一文が、短く端的で簡潔、それでいて強さと潔さを激しく感じさせる文章に完全にヤラレマシタ!まさしく作者さまが目指されたところの、童話的、民話的、説話的な雰囲気を私メはヒシヒシと感じ、それを堪能させていただきました。ヒロインの気質をそのまま表すかのような、ストイックなまでに感情の流出を抑えた文章。けれども、行間からは、深く、静かに情感と情緒が滲み出て、とにかくその雰囲気に陶酔シマシタ。イインですよぉ~。
キャラも最高です。森の賢者を友とし、欲とも俗とも無縁の育ちで、長く人と接することのなかったヒロインは自身を魔女と自称する割にはちっともそれらしくありませんが、それにしてもいつまでたってもどこか浮世離れした風が抜けません。それでいて、厳しい森の環境の中で一人で生きてきたせいか、彼女はとても現実的で冷静なリアリストの一面を持っていて、これが彼女に深みのある人間的な魅力を加味しております。彼女が単なる聖女さまになってしまったら、この物語はここまでおもしろくはならなかったと思います。聖女でも魔女でもないながら、なにがしかの神秘と不思議を持った娘ではあり、森の無欲と静謐、清浄の気配とその守護は、彼女が森から離れても失うことはありませんでした。それとは対極に位置する、人の世の汚濁と力を象徴する―鉄と血、そして火、その中で生きる王は、だからこそ彼女に惹かれ、求める気持ちが抑えきれないというのがまたヨカッタです。この王様が、まあ、覇道を歩んでいるわけですから、その冷酷非情なこと、この上ないのですが、そういう男が、自分とは全く正反対の存在である愛する女にだけは甘くなるという設定は、実にはっち好みでありました。相容れないものを感じた娘は王を拒もうとするのですが、それでもそこには男女の情愛が存在するわけです。そのあたりの葛藤やら諦観やらすれ違いやらがもうはらはらドキドキじれじれと最高に楽しませていただけましたし、だからこそ、それらを全て飲み込んで、一時その情愛に身を任せあう二人のシーンなどは実にドラマティックであり、一層官能的に思えました。
異世界ファンタジーでありますが、作中、過去キリスト教が新興していった時代と同じく、古き神、またそれを奉じていた人々が徐々に押しのけられてゆく様子が物語の背景として描かれておりまして、それらは実に説得力がありました。娘の故郷である森―くしくも、本編でもそれは黒い森とされております。かって、キリスト教が破竹の勢いで土着の神や信仰を飲み込んでいった時代にも、あのヨーロッパの中央にある黒い森は、その広大さゆえに壁となって立ちふさがり、その侵攻を最後の最後まで拒み続けたに違いない―そんな思いを新たに致しました。とはいえ、物語の宗教色?はそれほど濃いものではありませんので、それが苦手な方であっても充分容認できる程度であると思います。なによりも、そうした舞台背景、設定を説得力を持って描かれたからこそ、物語としての深さ、おもしろさが増した作品であります。同一のモチーフを用いた別作品、短編 『塔』 もまた、おススメであります。
★新館でも開催中 『秋に読みたい大人のメルヘン特集 』 はこちら から海野 細魚様のサイトはこちら


