春 宵 桜 雨

桃の節句 平安特集 第六弾
GENRE : オンライン小説 恋愛小説非R18 R指定なし
SITE NAME : ユジラスカの館
http://www15.plala.or.jp/yuzilasca/
MASTER : 和泉有穂 様
CAUTION :

STORY ;
父が失脚して、一家の生活のために幼くして都から遠く離れた蝦夷の豪族に嫁ぐことになった一人の少女。泣きくれる彼女の前に現われた美しくも不思議な男は、物語のように彼女を攫ってはくれなかった。その代わりに小さな桜の苗木を彼女に託す。この苗木が北の地で根を張り、花が咲いたなら必ず少女を迎えにゆくとという約束と共に。
長い旅路の果て、ようやくたどり着いた北の地では、暖かい目をした大きな男が少女を迎え、苗木を自ら庭に植えてくれた。男は少女を桜姫と呼び、妻にすることもなく、兄のように、父のようにその成長を見守る。最果ての地で思いもかけず、穏やかに過ぎてゆく日々。庭に植えた桜は二年で少女の背を抜き、三年で男の背を抜いた。
それでも桜はまだ咲かない――。
作品のご紹介 :
平安特集、最後にご紹介させていただくオンライン小説は、桜の苗木一つを心の支えにして、この世の果てにも等しい遠い地へ一人赴く、幼くも高貴な姫の物語。美しくロマンティックではあってもエロティックな要素があるとは言えないのですが、桜好きのはっちとしてはぜひご紹介させていただきたく、拙宅のコンセプトとはまたもはずれますが、お許しくださいませ。
この作品のヒーローは果たして誰であろうかと、悩むところであります。桜の化身ともいえる男か、それとも少女が嫁ぐ相手とされた土の匂いのする人間的な魅力に溢れた男か。中篇ではありますが、ある意味、少女の成長の物語ともいえるこの作品。少女の心の中で二人の男の比重が微妙であるのと同じ様に読者としても迷う所です。彼女がどちらの手をとるのか、それは単に、ハンサムがいいとか、たくましい方がいいとか、好みの男性のタイプうんぬんの問題ではなく、もっと象徴的で、もっと根本的な選択を物語は彼女に迫っているのです。
戦前などレトロな時代を背景としたこの作者さまのオンライン小説は逸品ですが、そのリアルでありながら幻想的、その時代ならではの雰囲気とロマン、そして季節の匂いを作品に漂わせる筆力の巧みさはこの作品にも現われています。少女の境遇やなぜ都落ちするに到った事情など、リアルな部分の説明もとてもわかりやすく語られており、その部分だけで、舞台となった平安の世の時代背景と雰囲気がすんなりと読者の中にはいってゆきます。また少女を迎える晴耕雨読の牧歌的な男ですが、作者さまは彼を語ることでそのまま北の大地そのものを語っているかのように思えました。美しい桜も、深く根を張ることができる豊かな大地がなければ、花を咲かすことはおろか、その命さえも保つことができない。そんな当たり前のことに、今更のように気づかされます。そんな桜と桜を育む大地、それはこの作品に登場する二人の男を象徴しているのかもと思います。そして、桜の花は少女そのものなのかも知れません。
ともすれば、京の都ばかりに目がいきがちな平安の物語。都から遠く離れた北の地を舞台とした、それでも平安ならではのお姫様と桜の美しくも切ないオンライン小説です。
平安絵姿集でご紹介したイラストサイトさまの作品の中には、絢爛豪華に咲き誇る桜を愛でる女性を描いた作品があります。それらは源氏物語のある女性をモチーフとはしておりますが、見る側のイメージは自由です。桜に魅せられたこのヒロインをその美しい作品に重ねてご覧になるのもまた楽しいかもしれません。
和泉有穂様のサイトはこちら


それでも桜はまだ咲かない――。
作品のご紹介 :
平安特集、最後にご紹介させていただくオンライン小説は、桜の苗木一つを心の支えにして、この世の果てにも等しい遠い地へ一人赴く、幼くも高貴な姫の物語。美しくロマンティックではあってもエロティックな要素があるとは言えないのですが、桜好きのはっちとしてはぜひご紹介させていただきたく、拙宅のコンセプトとはまたもはずれますが、お許しくださいませ。
この作品のヒーローは果たして誰であろうかと、悩むところであります。桜の化身ともいえる男か、それとも少女が嫁ぐ相手とされた土の匂いのする人間的な魅力に溢れた男か。中篇ではありますが、ある意味、少女の成長の物語ともいえるこの作品。少女の心の中で二人の男の比重が微妙であるのと同じ様に読者としても迷う所です。彼女がどちらの手をとるのか、それは単に、ハンサムがいいとか、たくましい方がいいとか、好みの男性のタイプうんぬんの問題ではなく、もっと象徴的で、もっと根本的な選択を物語は彼女に迫っているのです。
戦前などレトロな時代を背景としたこの作者さまのオンライン小説は逸品ですが、そのリアルでありながら幻想的、その時代ならではの雰囲気とロマン、そして季節の匂いを作品に漂わせる筆力の巧みさはこの作品にも現われています。少女の境遇やなぜ都落ちするに到った事情など、リアルな部分の説明もとてもわかりやすく語られており、その部分だけで、舞台となった平安の世の時代背景と雰囲気がすんなりと読者の中にはいってゆきます。また少女を迎える晴耕雨読の牧歌的な男ですが、作者さまは彼を語ることでそのまま北の大地そのものを語っているかのように思えました。美しい桜も、深く根を張ることができる豊かな大地がなければ、花を咲かすことはおろか、その命さえも保つことができない。そんな当たり前のことに、今更のように気づかされます。そんな桜と桜を育む大地、それはこの作品に登場する二人の男を象徴しているのかもと思います。そして、桜の花は少女そのものなのかも知れません。
ともすれば、京の都ばかりに目がいきがちな平安の物語。都から遠く離れた北の地を舞台とした、それでも平安ならではのお姫様と桜の美しくも切ないオンライン小説です。
平安絵姿集でご紹介したイラストサイトさまの作品の中には、絢爛豪華に咲き誇る桜を愛でる女性を描いた作品があります。それらは源氏物語のある女性をモチーフとはしておりますが、見る側のイメージは自由です。桜に魅せられたこのヒロインをその美しい作品に重ねてご覧になるのもまた楽しいかもしれません。
和泉有穂様のサイトはこちら


